相変わらず続いている、私の最低な恋愛の話について。



私は、良人さん(31)に対して本当にむかついていた。本当の本当に。あの人は私が傷つくと分かっていながら、酷い言葉を口にした。そのせいで、翌日目が腫れて大変なことになるくらい、泣いた。それは、私が良人さんに会いに行く理由をこてんぱんに壊すような発言で、今でも思い出すと胸が痛む。私を人間扱いしてくれない。その癖、私を放す気なんてなくて、小さな素振りで私を縛り付ける。
もう、会いたくないし、一緒に居たくない。もう終わりにしたい。そう思ったけれど、私は結局彼に会いに行った。昨日の朝早く。一昨日の晩、会いにきてって言われて。
憂鬱な電車。どんどん離れていく地元と、近づいていくあの人の家。本当に憂鬱だった。



家に着いた、けれど、彼は寝ていた。呼んでおいて、メールも電話もノックも気づかない。家の前で待ちぼうけを食らう。ずっとそこに居るのも、周りに住んでいる人に迷惑なのはわかりきっているから、彼の町を散歩した。寒い日だった。後から知ったけれど、その日は本当に4℃位しか気温がなかった。しかも、あろうことか、私は薄着をしてきてしまっていた。日向を求めて、私は歩き回る。
本当に惨めな気持ちだった。目的もなくて、別に会いたくもない人に会うために、私はどうしてこんなに寒い思いをしてしまうのだろう。寒すぎて、手が動かなくなってくる。泣きそうになる。
ふと、ポケットの電話がなる。彼が寝ぼけた声で話す。今どこ?起きたから。家おいで。
駅についてから、その電話まで、50分間。
電話を切った後、本当に涙が出た。短くて濃厚な涙。寂しさも、何もかも、そこには入っていて、肩が震えた。自分の惨めさ、哀れさ。彼の酷さ。冬の朝の寒さ。



家に着いても、いらっしゃいという声もしない。ごめんね、も、言わない。壁に向かって、メールを打っていた。私も悔しくて、そっぽを向いてメールを打った。ひとしきり打った。意味のないもの。別に用もないもの。
背後から携帯を閉じる音。私はそれでも打ち続けた。うち終わると、買ってきた板チョコを開ける。銀紙をゴミ箱に捨てるついでに、彼を少し見る、と、私を眠そうな目で見ていた。
「怒ってるの?」
それが、第一声。
「あんまり。」
「じゃあ少しは怒ってるの?」
「まぁ。」
「なんで?」
「寒かったから。」
「怒ってるなら、布団中入れてあげない。」
嘘をつくしかできない、私の愚かさ。そして、結局は私を布団の中に招き入れて、宥めるように抱きしめる彼のずるさ。



それはこの間のワンシーンでしか、ない。
彼は、子供が生まれたばかりの同僚を早く家に帰してあげるために、人一倍のスピードで仕事をこなし、人一倍仕事を背負う。結局、彼は最後まで仕事をしている。家庭内暴力を受ける女友達を家に匿い、その旦那に暴力の痛さを知らしめるために、一発殴る。
けれど、同僚は仕事が終わった後、友達とおしゃべりをして、終電を逃している。女友達は、結局、自ら旦那と別れない道を選び、良人さんに近づかなくなる。
彼の孤独。人一倍周囲に目を配り、必死で働く。そして磨り減っていく。それでも、自分を評価せず、自分を一番信用しない言い張る。
だから、私は愚かな女だから、離れられない。私は結局のところ、彼に何もできないことに気づいてしまった。彼の孤独なんて、私に埋められるわけがない。私にできることなんて、本当に、何もない。ただ、彼の欲求を満足させるだけ。けれど、愚か過ぎる私は、それでも、横に居てしまう。いい人になりたいだけかもしれない。私が居なければ、この人はだめになってしまうとか、そういう陶酔に陥りたいのかもしれない。自分のことなんて、本当に分からない。ただいつの間にか、彼の横に居たいと思ってしまう。それが恋なのかもしれない、けれど。
早く誰か、強くて美しくて、優しい女性が彼の前に現れて、彼の孤独を癒してあげればいいのに。現れることが分かっているのなら、私はそれまで精一杯耐えるから。自己嫌悪と、惨めさと、彼の攻撃に。



本当は知っている。彼があの朝、どんなに電話しても起きなかったのは、クリスマスシーズンの忙しさで疲れが溜まっていた所為だってこと。けれど、それを後姿で責めることしかできない私は、彼の一番にはなれない。
その後、ふたりで、泥のように眠った。(最近、彼はよく眠れるようになった。)時々起きては、私が横に居ることを思い出して、抱きしめてくれたり、冗談を言ってくれたり、する。だから、私は彼を癒せはしない。
誰か、彼を本気で愛してあげてほしい。揺ぎ無く、包んであげてほしい。そうしたら、私は彼から一目散に逃げ出して、遠く遠くへ行こう。その日を待っている。