家に帰る前に、地元の駅前のビルに寄った。
沢山の人が出たり入ったりしていて、ちょっとよろよろしながらもビルの入口に入ろうとするけど、なかなか歩きにくい。
ふと前をみると、往来の真ん中で咥え煙草しながらメールをうつオジサンが立っていた。その人のせいで結構人がつっかえていたらしい。あらら、と思いながら、ふらふら歩いていくと、見覚えのある人がそのオジサンを睨みつけながら歩いていた。
お母さんだった。
それは、普段私に向けられる怒りの表情とも、全く違った、憎しみとか、怒りとか、そう言うものを全て表情に詰め込んだ感じの、ひどく恐ろしい顔だった。私はそんなお母さん本当に見たことなかった。
私はお母さんに気付かれないように、端っこに避けて過ぎ去っていく後姿を見過ごした。
そうか、お母さんは外で見ると、あんなにも普通で、恐ろしくて、冷たそうな人なんだ、と始めて知った。
たかが、オジサンがそこに立っていただけ。それは、お母さんにとってそこまでひどい怒りをぶつけるような問題だったのだろうか。


私はイマイチお家に帰る気が起きずに、ビルの中のマックで一人宿題をしていた。でもなんだか全然集中できずに、向こうに座っている子供を見ながら、ぼんやりとしていた。
ふと、机の上に乗っていた、携帯がぶるぶる揺れた。
自宅という文字が画面に映っている。

もしもし?シホ、何時にかえってくるの?

お母さんは、いつも通りの、ほんの少し甘い声でそう言った。
私は、もう帰るよ、と言って、机の上に広がっていた勉強道具をかたずけながら、どこかほっとした気持ちと、まだ帰りたくないような気持ちで、心がぐるぐるしていた。