朝。

朝の光は霞んでいた。けれど大きくて投げやりで、本当は綺麗で、嘘の匂いがした。内面を研ぎ澄ました、圧倒的な嘘。優しそうにさえ見える大きな虚像。
みんな死んだようになっていた。不本意に起き、不本意に行動する人と町並み。まだ布団の雰囲気を皆が体に残している。夜からの切り替えに戸惑っている。疲れは取れてない。
彼らは夕べどこにいて何をしていたんだろう。柔らかな布団の上か、狭いソファーか、街角の居酒屋か、埃っぽい火燵か。そして、横には愛しい人がいたのだろうか。もしくは、一晩の慰め、もしくは読み飽きた週刊誌。テレビが着きっぱなし、脱ぎ捨てた靴下、綺麗なバスローブ、飲みかけのビールの缶、よく磨かれた歯、どんなものが横にはあって、どんな眠りだったのか。知らない。けれど彼らは同じように歩き、同じように電車に乗る。眠そうに、怠そうに。
その退廃的な朝の人々に、朝日は煌々と始まりを教えている。コーヒーとトーストの似合う朝。小鳥がさえずり、澄み切った空気を振り撒き、さも希望を抱かせようとしているかのように。
その退廃と希望はちっとも噛み合わないし、どちらも歩み寄りを見せない。けれど、いつか人々は朝に歩み寄るようにして、活力や笑顔を取り戻している。まるで夕べの夕方のように。朝に、ではなく、もっと他の物に。
そう考えると、朝はなんて孤独にやって来るのだろう。誰かから望まれてやって来る物ではないのだ。眠りを妨げる、邪魔な存在。夜の自由を、開放をリセットし、またどこかに所属すべき存在へと人々を変えてしまう大きな力を持つ。始まりを告げ、全てを変えて光る。それを、独りで行う。朝は、孤独だ。