夕方、駅を出て、家に帰る途中、日課として見上げた空に、違和感のような、不思議な感覚を覚えた。恐ろしいほど嘘の色。私は少し早足で、開けた場所まで歩いた。何色だろう。黄土、オレンジ、青、赤、灰、朱、白。分からない。
できるだけ早足で歩いた。そして、家に帰って直ぐに、太陽の沈む方向のよく見える、父の部屋へ入る。障子を開けて見ると、恐ろしいほど光った太陽は、地面に溶け込むような形で周囲の雲や町並みを染めていた。恐ろしい夕暮れがやってきた。私は、恐怖を感じた。多分、古代の人は夜が怖かったと思う。完全なる暗黒の中、自分さえ見えないその中で、息をしなければいけないから。その前ふりの夕暮れがこんなに恐ろしいのはその所為だ。きっとそうだ。多分。
その夕暮れは次第に街の中に溶けていく。小さくなる。線香花火の丸いところみたいだ。もう終わってしまうあの感覚。柔らかそうな小さな丸はグズグズと燃えながら、歪な形で縮こまる。寂寞とした感情が、胸の奥に固まって霞んでいる。
その、丁度上にきらきらと光る、小さなガラスの破片のようなもの。飛行機の光かと思った。しかし、それは違っていて、それは紛れも無い星だった。夕日が強く照りつけるほど、同時にその星は光を強めた。幼稚園でやったキリストの生誕劇の、お星様役の子が頭につけていたあの銀色の星は、あながち嘘ではない。あんな雰囲気だ。どこか不自然な感覚がするのだ。あまりにも「それ」らしくて、軽く吐き気のようなものを胸に感じた。
次第に光を失って、肉眼で見えるスピードで、町並みに溶け縮むそれは私の知る太陽ではない。最後は、遠くの真っ黒な電信柱の後に、それは残骸の光を残して消えた。地球の自転を感じた気がした。私の地面はゆっくりと回転したのだ。
美しいとは、これの事か?
そして、夜が次第に空を染めていく。