お昼休み、偶然喫茶店で会った友達と一緒に校舎へ戻る。
猫の死体、見た?その子は私にそう聞いた。校舎の庭にあったと言う。とても平然と、別段何の悲しみもなく、ただほんの少し驚きのある声で。私は、見ていなかったし、これからも見たくなかった。この後に待ち構えるテストに大きく支障が出てしまう。死体は、18年しか生きてない私には少し衝撃が強すぎる。
いやだ、こわいと言い続ける私をその子はどこかバカにするような態度で諫めながら(私たちはいつも互いに貶し合うような関係だから、当然といえば全くその通りだが)すっかり寒さを無くした道を歩く。


校門をくぐってすぐ、その子は、あっと、声をあげた。そして、違った、と言う。
私はその子の向いてる方に目をやる。と、真っ白な猫が。猫がねっころがって、手足をぴーんと突っ張って、伸びを。思わず、かわいい!と叫んだ。校門入ってすぐ、小さな受付の建物のまよこ。草や苗木に囲まれた小さな隙間に光がたくさん集まってる。猫は目をつぶって、目頭に目やにをつけて、白い毛は、太陽を反射して光る。なんだ、日向ぼっこか、とその子は言った。意外だ、と言う様に。その後、何事もなかったかのように、テストを私たちは受けた。


今日、私の携帯についているビーズの犬の前脚が壊れた。なんとなく、その猫を思い出した。正確には、猫の話をした時の友達を思い出していた。残酷でない子だ。真面目で、美しく、けれど冗談は研ぎ澄まされたキツさ。優しい人だと思っている。優しいのに、言動は常に毒がつく。


あの子は、猫の死体を見たあと、一人の喫茶店で、何を考えて紅茶を飲んでいたんだろう。足を一本失った、このストラップを見るような、そんな気持ちだったのだろうか。それとも、全く別の次元の考えをしていたのか。伸びをしている猫に何を感じたか。私は聞いてみたいと思うけど、私とその子はそういう関係でない。私とその子は、あくまで貶しあう関係なんだ。内面を曝け出すような会話は出来ない。

その事を、寂しく思った。でもまぁ、あと一年間、その子とは同じ学校にいられる。いつか聞けるだろうかねー。
期待だけして、今日も寝よう。