突然、予備校時代の友達から電話がかかってきた。一緒に先生に会いに行こう、との事。ようやく家で夜にゆっくりしていられる日が来たのに、私は自分の安らぎを捨てたのは、もう何度もその機会を失っているからもあるし、正直、じっとしていると時に気が狂いそうになるからでもあった。
久しぶりに会ったミエコはものすごいテンションで、色んな事を話し始めた。前から自由奔放な子だったけれども、余計にその勢いは増して、どこかクレイジーにも見えた。着いていけないことはない。私もクレイジーだったのだ。
ミエコはずっとクレイジーに話し続けた。それはそれで楽しかったけど、妙な具合に彼女の頭の中で何かが繋がっていない。話が奇妙に捻じ曲がっている。不思議に思うし、突っかかりはするが、そのまま話し続ける。新生活の愚痴など。(いつから君はそんなにアグレッシブになったんだ?と聞きたかった。)
しばらく愚痴を続けると、ふと、彼女は泣き出した。ありがちなパターン。だけれども、私はミエコが気に入っている。(変な意味じゃなくてね)だから、ふと、私まで切なくなってきたのだ。この先、どうしていけばいいのか分からない、という五月病ど真ん中な悩み。けれど、彼女の世界では、大きくて悲しくて辛い悩みだ。安っぽいマックの一角で、彼女は泣き、私は彼女の頭を撫でながら、慰める。ねぇ、ミエは、少し周りの人の心に気を配りすぎているよ。もっと自由に、でいいんだ。と。あんまりにもステレオタイプ。しかし、本当に必要な言葉だったのではないかと、自分では思うよ。その時、私は久しぶりに人の目を正面から見た。酒も入っていない状態で。緑色のアイシャドウがマスカラにまでこびり付いているその一重の、どこか光を無くした目を見つめた。心が通う気がした。ずっとそれを避けて通っていたのに。私は人の目を見た。見たぞ。見てやった!


その後、目当ての先生に会いに行く。授業が終わってへとへと且つ、生きるオーラまで無くしたかのようにも見えた。そして、何より驚いたのは、先生のコスチュームの変化だ。彼はいつもハデでファンキーな服を着ていたのに、色も落ち着いたスーツを着ていた。
どうしたの!?と聞くと、うんざりしたような顔をした。その後、喫茶店に入って、煙草を吸いながら(私が煙草を吸い始めた時、先生もミエコもおどおどしていた。)いろいろな事を話す。生徒としての立場を、あちらは先生としての立場を失っているので、フランクに、ディープに。一人ずつ、自分の悩みを。そして、それに対する考察や洞察を、抵抗する事も無く口にする。心地よかった。なにより、私はずっと相手の目を見ていた。
全員が何か捨てようとしていた。先生は自分の固持していたスタイルを、ミエコは夢を、私は希望を。そして、誰かはそれを本当に捨てて、誰かはそれを持ち直すのだ。けれど、その先には絶望だけがあるわけではない。私たちは自分の居場所を確認しあった。どんなに苦痛でも、誰も見捨てない。それだけの居場所。
アルコール無しで、何かを語れる事。そして目を見ること。まとまらないけれど、それは、力があって。