「ねぇ、知ってる?」
ちょっとだけ、上目遣いを心がけて、私は少し背の高いその人に話しかけた。その人、推定28歳。容姿、微妙、あと一押し。性格、微妙、あと一押しっていう感じはするけれど、結構好き。そんな人、名前、よく知らない。
「何?」
素っ気無く、けど私の目を見て、そう返す。少し上目遣いが好きなのかもしれない。そう感じた。よし、よし。
「そろそろ、旅人がくるよ。」
「はぁ?」
即答で、素晴らしい跳ね返し。眉間に、くっきりと縦皺が二本入った。訝しげな目、からかいも混じっている。逆に、うきうきした。私はこの人のそういうところが気に入っている。私になんてこれっぽっち優しさをくれないところ、優しさをくれないから、こそ、本当に優しいと思えるところ。
時々、この人で自分を試したくなる。自分がどれだけの評価を受ける価値があるのか、そして冷たい反応に耐えられるだけの自信を自分が持っているのか。この人は私をちっとも評価しない。正しい答えを導き出すと、彼は何も言わずに、横目で私を見るだけ。だから、試しては考える。要するに私は、少しだけ、マゾヒスティックらしい。
それはそうと、本当に旅人は来るのだ。これは、自信を持って言えるの。
「旅人、来るんだよ、本当に。今度は何を持って来てくれるんだろう。」
「意味が分からない。」
「解説する?」
「いらない。」
その人は左手に持っていた缶コーヒーを一口飲む。そして右手のタバコを咥える。
「じゃあしよぉっと。」
ふうっと、煙を吐き出すと、遠くまでそれは流れていった。街灯の明かりに照らされて、ゆらゆら動いているのがとても綺麗。
「あのね、